北の都、サルタへ


 翌朝早く、5人組は40号をそのまま北に上がっていったが僕は一旦東に折れてSalta州の州都サルタへ向かわなければならなかった。何故なら前日スピードメーターのワイヤーが切れてスピードも距離計も動かなくなってしまったのでワイヤーを買いに行くためだ。スピードが表示されないのは気にしないが、距離計が動かないのはとても困る。走った距離から残りのガソリン残量を計算して給油するタイミングを計れるけれど、誰にも何にも出会わない荒野でメーターがないのは大海原を漂流するように心細い。

 見渡す限りのサボテンの平原を抜け、3620mの峠に着いたときには雲で太陽が隠れて指の感覚が無いほど寒い。南米を旅すると、寒すぎたり暑すぎたり、カラカラに乾いていると思ったら洪水だったりと忙しい。
 峠から東の谷を見下ろすと絶景が広がっている。垂直に見える崖に道路がへばりつくようにジグザグと谷まで下っているのが見える。下から上ってくるトラックが真上から見下ろすように見える。山から湧き出してくる大きな沢を何度も渡りながら下っていく。山と川そして密生するサボテンのコントラストが美しい。
 平野に下りて舗装路が始まってしまうと急に景色はがらりと変わり、日本の田舎でも見た事があるような農地が広がっている。サルタに近づくと久々に交通量が増えて昼の1時ごろに街に入った。丁度シエスタが始まってしまったのでバイク屋は4時までおあずけされた。街は南部の都市のような整然とした様子とは異なり、ごちゃごちゃと看板や店が並ぶパラグアイの雰囲気を混ぜたような印象だ。4時を過ぎると店も人も一斉に活動を開始し、通りは人で溢れ、どこかアジアの様な雰囲気さえある。
 アルゼンチンの中国製バイクビジネスは活況を呈している。右を見ても左を見ても中国製バイクの店ばかりだ。その中の一番大きな店でメーターワイヤーを手に入れる事ができた。
 この店に中国製品を卸していたセールスマンの話によると、なんと2002年のアルゼンチンの経済危機で仕事が出来なかった時期に日本のヤマハ本社を観光で訪ねたことがあるらしい。世の中はなんと狭いことか、そして人はなんと逞しく生きて行ける事か。