ジャングルを切り開く男の生き方


 人口2千人、国境までのジャングルでは最大の村サンホセデチキートの駅で1時間待ったが無事にバイクと対面する。ブラジルの国境までは強盗が出たりする危険地域だから注意するように言われていたが、貨車の廻りはマシンガンで武装した兵士達に固められて立ち入り禁止になっていたところを見ると、貨車から荷物を強奪したりトラックを襲撃する武装グループは本当に居るのだろう。

この村にはオキナワのヒロ君の友人ダルミロチャベが居ると教えられていたのでヒロ君の携帯に電話をしてその友人に会おうと思った。実は数日前にその友人に駅に迎えに来てもらう約束だったのだが、僕のパスポート紛失事件でキャンセルになった経緯があった。彼は猟が趣味なのでその夜も出掛けるはずだったのだが、僕のために猟をキャンセルしていたので彼に会って謝ろうと思っていた。ところが残念ながらこの夜も彼は猟に出掛けていて居なかった。代わりに彼の奥さんと息子が小さなバイクに2人乗りして駅に迎えに来てくれた。3人で村の中心にあるレストランに食べに行くと先客の3人がいた。男と若いボリビア女性2人。親子はその男と知り合いであるらしくスペイン語で何やら会話をする。男は用心深く探るような目で僕を眺めたあと日本語で話しかけてきた。まさかこんなジャングルの中の小さな村で日本語が聞けるとは思っても居なかったのでびっくりした。日本人だと思ってみると顔は僕の日本の友人に似てきたように思えた。年齢は僕より5歳くらい上。彼はオキナワ出身で高校卒業後に日本の沖縄に渡り、同じく日系人の奥さんとの間に子供もいて22年間日本で生活していたのだが半年の約束で奥さんと子供を残したままボリビアに戻ってきて連絡を絶ったまま1年半が過ぎたという。この村から道路も無い密林の中を1日以上入ったところでボリビア人人夫8人を雇ってジャングルを切り開いて莫大な投資をした巨大な農場を作っている。ジャングルの中はありとあらゆる野生動物、ライオン、ジャガーや大蛇アナコンダも居るし、沼や川にはクロコダイルがうじゃうじゃ居るらしい。“こちらは生きている実感があるけれど、日本の生活はつまらないからね。もう日本に帰るつもりはないんだ。日系社会も堅苦しいから日本人の誰もいないここが居心地良いんだよ。家族とはお互い別々の人生を行くしかないんだ。家族にはそのうち連絡しなくちゃね。”静かに落ち着き払って自分の決意を僕に語った。“俺の農場に招待したいけど遠すぎるからね。”、“時々ジャングルからここに遊びにきて暫くホテルに泊るんだ。”、“ホテルの部屋にベッド2つあるから金使わないで一緒に泊ればいいさ”と親切な言葉をくれて夜遅くまで彼にビールをご馳走になった。翌日、村の中でボリビア人の小さなバイクの後ろに乗る彼を見かけた。彼は昨日僕には見せなかった楽しそうな笑顔で僕に向かって手を上げて目の前を通り過ぎていった。

 昨日会えなかったダルミロチャベとは午前中に会うことが出来た。猟からは朝帰ってきたのだとか。彼も農場のオーナーなので自由気ままな生活だ。訪問をとても喜んでくれて家で昼ごはんをご馳走になった。良い所があるから案内すると言って小さなバイクで先導し広場の横にある1748年に立てられた教会、街外れにあるジャングルを見渡す小高い丘に案内してくれた。丘の上からは、北には永遠と広がるジャングルが、南にはパラグアイへと続く誰も通らない凸凹道が続いていた。地球上のどんなところにも人の夢と野望とドラマが隠されている。