ワニと一緒に温泉キャンプ


 拍子抜けしてしまうことにサンホセデチキートから130km東のロボレ(Robore)へは綺麗なアスファルトが敷かれていた。その先しばらくすると工事区間に入って車が通るともうもうと埃のあがる旧道の悪路を走ることになったが、遠くないうちにブラジル国境まで全線アスファルトで結ばれるだろう。ただ相変わらずここも殆ど車を見かけない。グランドキャニオンのような雄大な岩山を過ぎると線路に沿ってジャングルの中の林道が続く。この日はアグアカリエンテ(AguasCalientes)(熱い水)という文字通りの温泉でキャンプをした。

 村はずれのうっそうとしたキャンプ場。と言っても誰もいないし温泉とはただの広い沼で沼の一部の水がぬるいだけだ。一応昼間に近所の人が掃除に来てお金を徴収して管理してはいるのだが、南米人のゴミ捨てのモラルはとても低く、ここもテントの周りや沼の中にはビンや缶などが落ちている。先ずはゴミ掃除に汗を流してから温泉に入った。沼にはワニも出るらしいが、幸い温泉に入ったあとで人から聞いたので気持ちよく入れた。湯の中には魚たちが無数にいる。小さい奴が体をつついてくるのでくすぐったい。しかし湯から体を出すと蚊の襲撃に遭う。やがて暗くなるとブラジルからの物資の輸送をしているボリビア人トラックドライバー達が入ってきた。“こないださあ、自転車でキャンプ旅行している頭のおかしい日本人が居たよ”なんて会話が耳に入ってくる。こんなところで、しかも危ないと言われているこのあたりでキャンプをしながら旅をする変人は僕だけかと思っていたが世の中には意外と変人は多いものだ。ウユニ以来のキャンプになるが環境は大違い。寒さに震えた静かなウユニの夜に対してこちらは暑くて寝袋も要らず、獣の鳴き声が聞こえる。蚊も凄まじくてテントの中で線香を焚く始末。近くの村に1泊7ボリビアーノ(100円)の宿があったけれどもこんなに蚊が多いのではテントの方がマシだろう。

 翌日ブラジル国境の街プエルトスアレス(Pt.Suarez)まで200km。のどかな道を、時々トラックの埃につかまりながら淡々と走る。途中小さな村では青空食堂に寄った。木陰でビールを飲む男たち、隣のハンモックで遊ぶ少女たちは店員でもある。僕が木陰に入ると直ぐに男たちからビールの無料の差し入れが出てきて仲間に入る。少女達への青空日本語教室が始まる。ギラギラした太陽、暑さ、ビール、みんな笑顔、陽気、誰も働かない、誰も困らない、時間が動かない、平和。そんな最後のボリビアを胸に刻んだ。