先住民の世界


すすき野が黄金色にまぶしく輝いている。名前も無いような寂しい谷にさえ太陽は彩を与え風景に生を宿す。
 標高をぐんぐんと上げて標高3952mのMunano峠にエンジンが息絶え絶えでたどり着く。不思議な事に近くに村など無いのに峠にアルパカのセーターなどを売る露天商のおばさんが居た。テレビで見たことのあるペルーのマチュピチュに居そうな独特の帽子とスカートを履いた女性だ。一体何台の観光客の車がここを通り、ここで買い物をするのだろうか。競争相手の多い街を離れて小さな可能性を求めて毎日ここまで売りに来るのだろう。ミニバンに乗ったフランス人の中高年の団体が見ていたが、彼等は何も買わないで立ち去った。
 峠を越えると、遠くに山を見ながら明るく開けた天子が降りてきそうな風景に変わる。しばらくすると突然に眼下にコブレス(San Antonio de Los Cobres)の小さな街が飛び込んできた。乾ききった大地に殺伐とした色の無い背の低い家々がへばりついている。立ち止まってそんな風景を眺めていると、どこから出てきたのか4歳、5歳くらいだろうか2人の子供がバイクの脇に来て無言でリャマやアルパカの毛糸で編んだ動物達の飾り物を買わないかと差し出してくる。とても可愛らしく手の込んだ作品だが値段はたったの1ペソだ。こんなに小さな子供が炎天下の下でたまにしか現れない観光客を待って家庭を助けていると思うと言葉も出ない。先進国の甘えている子供達、甘やかしている大人達にこの現実を見てもらいたい。彼等が何を考えて日々暮らしているかを想像してもらいたい。その人形を欲しい気持ちと、子供のひたむきな努力をたたえたい気持ちで買いたかったが残念ながら僕のバッグには土産物を入れるような隙間は何処にもなかった。咄嗟にたまたま手に持っていた10枚入りくらいのビスケットをまるで子供達と分けて食べようとするかの如く半分を自分用に残し、半分を彼に手渡した。1ペソではそのビスケットは買えないから彼等にとってはあまり口にする事のない珍しい物を手に入れたことになるだろう。受け取った子供は相変わらず無口で表情も変えずビスケットを手に持ったまま立ち去った。何処へ消えるのだろうと目で追っていると30mくらい先の岩陰に隠れていた乳飲み子を背負ったお母さんのもとへと消えていった。子供を使って情け心で気を引いて買わせようという作戦なのだろうか。彼らのプライドを踏み潰すお金を恵むようなことはしたくないが、思わずビスケットを渡してしまったのは子供達の心に何を残したのだろうか。やはり同じ意味に捉えられてしまったのだろうか。苦い思いを胸に街へ入っていった。