終わりに


 4月10日深夜のサンパウロ空港。チケットを受け取ってロビーを歩いていると遠くから大声が聞こえた。“おーいタカシ!”ユバのヒョウさん達だった。僕と同じ飛行機で日本に行く家族のミカさんと赤ん坊を空港まで送りに来ると聞いていたので会えるのを楽しみにしていた。“タカシを向こうで待ってたんだけど遅いから探しに来たんだよ。会えて良かったなあ。”そう言ってビールを買ってきてくれて乾杯をした。まるで僕も家族みたいだ。ユバを出るとき“もし空港に人が多かったら笑ってる人を探せばいいから簡単だよ。それがヒョウさんだから。”と言われていたが全くその通りだった。出国ゲートをくぐって見えなくなる最後の最後まで笑って手を振り続けて南米から見送ってくれた。

 帰国後暫く経ったある日、これを書いている時に電話が鳴った。国際電話の雑音の中の声はパラグアイでお世話になった方だった。先方からとても重宝する南米地図を頂いていたのだが、旅を終えた後にサンパウロから代わりとなる地図とお礼の手紙を出していたのだが、それへのお礼の電話だった。優しい彼女の表情や電話の向こうの景色が浮かんでくる。びっくりして何を言って良いやら、ひたすらお礼を言い直す事しかできなかった。朝の10時だったから現地は真夜中のはず。早く寝る家だったからきっと時差を読んで遅くまで起きていてくれたのだろう。今、目の前で日本の時間が流れる一方で、南米のそれぞれの場所でそれぞれの時間が流れている。同じ1秒は1秒なのに明らかに時間の感覚は違う。とっても不思議だ。再び僕の心の中にパラグアイの時間が流れ出す。

先日新潟に遊びに行った。往きの飛行機の中で知り合い、旅行初日にブラジルの実家で会ったルシアノと奥さんホザーナは僕より先に日本に戻っていた。驚かそうと思って新潟市から前日に電話をして新潟アルビレックスのグラウンドで練習していた彼を訪ねた。彼も奥さんもブラジルで見たままの元気な様子、それを見てまたブラジルに戻った様な気分で嬉しかった。驚かすつもりが逆に食事を用意してもらうサプライズを受け、相変わらず上達していない僕の下手なポルトガル語で夕方まで彼の家で再会を楽しんだ。ここは日本だから今度は僕がもてなす番だったのだがすっかりやられてしまった。今度は新潟でシュラスコパーティーをする約束をしている。今度はどうやって驚かそうか今から楽しみで仕方がない。

この旅では本当にたくさんの人の応援を受け、多くの人と出会い、旅を楽しく、心を温かく豊かにしてもらった。そんな人達に恵まれた僕は最高に幸せ者だ。それは旅が終わった今でも続いているし、これからも続くだろう。彼等がいなければこの旅はあり得なかったし、今の僕の心の幸福感も無い。彼等は旅、言い換えれば僕の人生を明るく照らし出してくれた。ただただ、みんなに心から感謝している。僕の心の故郷南米にまた“帰る”日を楽しみにしている。


旅の途中や終わってから、色んな人からたくさんのメールをもらった。どれもこれも勇気を与えてくれたり、心に響く嬉しいものばかりだった。最後にその中の一部を紹介したい。

信じられない、信じられない、信じられない、…何回繰り返しても足りないくらい信じられない旅だよ。俺は冒険のファンなんだ。旅先で色んな人に会うのは楽しいよね。とりわけ家から遠く離れた異文化で。俺はいつかお前と同じ様に地球の反対側のヨーロッパをバイクで旅しようと思っているんだ。お前はいつも俺の尊敬を勝ち得ているよ。
 ネルソン(元ブラジルヤマハ、元仕事の同僚)

全ての旅には物語りがある。感じる事や学ぶこと、色んな場所を知る事、貧しさを知る事は素晴らしい教訓になる。一方で健康や強い意思、計画や運が人生のどんな行動にとっても成功への鍵になる。旅の成功と真の冒険精神にお祝いを送るよ。君は侍の精神を持った男だ。
  テツ(ブラジルヤマハ、彼もバイク冒険旅行者)

凄い冒険が次から次へと起きていますね。私にとっては映画を見ているようですが、これは本当に経験しているのですね。こんな自然を目の前にすると人間って本当にちっぽけに感じます。自然は本当にパーフェクトですよね。私はこんな時に神様の存在を感じます。
 自分に自信があるから夢を追いかける事ができるのですね。誰にでも出来る事ではありませんよ。健康に気をつけて、事務所の仕事に縛られている皆の分も冒険を楽しんで!
 ルシア(ブラジルヤマハの素敵な秘書)

 やっぱりあんたはイカしてるよ、まじで。人生こうでなくちゃね。しょぼい仕事して小さくまとまった人生より、ダイナミックに誰にも真似の出来ない生き方、だから人生は生きる価値がある、そんな風に思える生き方。
 
ここで一句。“マセタカシ、何年経ってもマセタカシ”俺の永遠のヒーロー、マセに幸運あれ。
  アツシ(昔一緒にバイクでロシアを横断した戦友)

再びブラジルに戻ったなんて信じられない。しかも未だ生きているなんて!おめでとう!お前はラテンアメリカに大きな軌跡を残し、たくさんの友人をここで得たんだ。お前は我々に教訓を教えてくれた。もし本当に手に入れたい夢があるなら、それがどんなに困難でも実現するのだという事を。お前の友人である事を誇りに思っている。”
  ウィリアム(チリヤマハのマネージャー、元モトクロスチリチャンピオン)

次の”旅のデータ”のページで南米バイク旅行フォトエッセイおしまいです。
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昔のロシアシベリア横断記録も追加しています。INDEXからどうぞ。